いつでも一番星
わたしとは違い、中学時代から横峰くんと茉理ちゃんのやりとりを知っているせいか、ふたりの様子は特に気にしていないようだった。
そしてなぜか今、必死にわたしに向かって手招きをしている。
「ほら、早く!」
「えっ、わ、わかった……」
興奮した声で急かされて、よくわからないままナツくんのもとへ移動する。
わたしが隣に並ぶと、ナツくんはにっと笑って窓の外……空を指差した。
「一番星、見っけ!」
宝物を見つけたみたいにわくわくしているナツくんの声が、すくそばで空中を跳ねた。
夕暮れの空の少し低い位置に浮かんでいる、たったひとつの小さな輝き。
ナツくんが言葉と指先で示したのは、一瞬でわたしの心を奪う一番星だった。
意識する前に口角が上がる。
「ほんとだ、一番星が出てる! ナツくん、よく見つけたね!」
「ははっ、まあね。最近俺、この時間に空を見るのを日課にしてるから、それですぐに見つけられたんだよ」
「もしかして、それって……」
思い当たる節を脳裏に浮かべながら、優しい表情で空を見上げるナツくんの横顔を見つめる。
すると、ナツくんがその表情のままこっちを見てきた。
そしてわたしと目を合わせると、やわらかく両目を細めて微笑む。
「前に平岡さんの話を聞いてから、俺もまた一番星を見つけたいって思うようになってさ。それからずっと、日課にしてるんだ。一番星を見つけて、祈ること」
ナツくんが紡いだ言葉は、わたしが予想していたものだった。それでもびっくりする。
だってまさか、あの日の話を覚えてくれているなんて……。