いつでも一番星
「――はい」
悶々としていた意識を、高めのはっきりとした声によって呼び戻される。
顔を上げると、ナツくんが半分だけ身体をよじってこっちを見ていた。
再生紙に印字されている漢字の課題が差し出されている。
いつの間にかプリントが、わたしのもとにまで回ってきていたらしい。
至近距離でナツくんと目が合う。
黒々としてビー玉みたいに丸い瞳が、真っ直ぐわたしを見ている。
それがあまりにも綺麗で、胸の奥でドキンという音が鳴った。
「……あっ、ありがとう」
ナツくんの端正な顔に見とれながら、差し出されたプリントを受け取る。
わたしの言葉に、ナツくんは微かに笑ったように見えた。
それから身体の向きを正面に戻すと、また元通りの綺麗な姿勢になる。
その背中を見つめたあと、わたしは頬杖をついて俯いた。
……赤く染まった顔を、誰にも見られないように。
ああ、困っちゃうなぁ。
いくら恋愛感情はないと言い張っても、憧れのナツくんと目が合うとやっぱり緊張してしまう。
あの整った顔が間近にあれば、あの純真な瞳で見られれば。
嫌でも、ドキドキしてしまうんだ。
しかもナツくんは配布物を回すとき、決まっていつも振り向いて渡してくれる。
女の子でも男の子でも。大抵の人が前を向いたまま、手だけを後ろに向けて渡してくるのに。
ナツくんはご丁寧に、振り向いて顔を見ながら渡してくれるんだ。
だからそのたびに、こうやってドキドキしてる。
素っ気なく渡してくるわけでもないその態度は、ちょっとだけ嬉しいけれど気恥ずかしい。
憧れの人がくれる些細な優しさは、わたしの心をくすぐっているみたいだった。