いつでも一番星
作るものが決まって少し心に余裕が持てたわたしは、ふと茉理ちゃんのことが気になって尋ねた。
「そういえば茉理ちゃんは、バレンタインになに作るの? 横峰くんにも渡すんでしょう?」
幼なじみのふたりは高校生になっても仲良しだし、きっとバレンタインには何かしらのチョコを渡しているはず。
勝手にそう思い込んで返答を待つけれど、茉理ちゃんから返ってきたのは濁すような言葉だった。
「あー……。実は作らないんだよね」
「え、じゃあ渡さないの?」
「いや、渡すよ。毎年、買ったやつだけど……」
語尾が徐々に小さな声になっていく。かと思うと、茉理ちゃんの顔が苦笑と羞恥が入り交じったものに変わった。
「……あたし、ほんとお菓子作りがダメで。バレンタインは毎年、誰に渡すチョコも既製品にしてるのよ」
「そうだったんだ……」
茉理ちゃんと仲良くなったのは高2のクラス替えのときからだから、去年の茉理ちゃんのことは知らなくて。
お菓子作りが苦手なことも、それゆえのバレンタイン事情も、初めて知ることだった。
裁縫が苦手なことは家庭の授業のときに知ったけど、お菓子作りもだったなんて。
わたしはそれらがどちらかと言えば得意分野だから、わたしたちって正反対だ。
「……でも、手作りしてみたいって思ってるんじゃない? さっき、すごく興味深そうにレシピ見てたし」
わたしがレシピを読んで考えている間、茉理ちゃんも一緒のようにページを見ていた。しかも夢中になって、まじまじと。
あの食い入るような目は、手作りに関心がある証拠だ。