いつでも一番星
想い
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バレンタイン当日。
どこからともなく甘い香りが漂ってきそうなその日の朝、わたしは始終ドキドキしながら学校に到着した。
……大丈夫、大丈夫だから。
とりあえず落ち着こう。
騒がしい心臓に優しく語りかけながら、昇降口で上履きに履き替える。
それでもまだ全身で脈打っているような気がして、そわそわした気持ちは簡単には消えてくれない。
今からこんな状態で、ちゃんと渡せるのかな……?
昨日友チョコを作っているときからずっと緊張し続けている心は、もう無理だとすでに悲鳴を上げている気がする。
……でも。
「……っ、」
緊張を押し込むように奥歯を噛み締めて、肩にかけているカバンの持ち手を強く握り直す。
ナツくんに、少しでも近づきたい。そんな想いがあって、友チョコを渡すって決めたんだ。
緊張なんかに負けて、いつまでも足踏みしているわけにはいかないよね。
すーっと大きく空気を吸って、それからゆっくり息を吐く。
深呼吸をすると、幾分動悸が和らいだ。
「雫、おはよー!」
落ち着いた状態で教室へ向かおうと足を踏み出したとき、背後から元気な声で挨拶をされた。
この朝から活気に満ち溢れた声は、茉理ちゃんのもの。
聞き慣れたそれで振り向く前から声の主がわかっていたわたしは、いつものように何気なしに振り向く。
けれど振り向いて茉理ちゃんを見た瞬間、もう少し心の準備をしておけばよかったって、ちょっとだけ後悔した。
……だって茉理ちゃんの背後に、その姿を一瞬で見つけてしまったから。
横峰くんと何かを話しながら、昇降口に向かってくるナツくんの姿を。
静まっていたはずの緊張が、呆気なくぶり返す。