いつでも一番星
「お、おおおはよ、茉理ちゃん!」
「雫、なに慌てて……って、ああ。そういうことか」
あからさまにパニックに陥った状態で挨拶を返すわたしに、茉理ちゃんが怪訝な顔で首を傾げる。
だけどすぐに、さっきからわたしが逸らせずに固まっている視線の先に気づき、理由を尋ねるのを途中で止めた。
そして小さな声で頑張って、と囁くと、ナツくんたちに見えない角度でぽんっと背中を叩いてきた。
が、頑張ってって、まさか……!
ここで、友チョコを渡せっていうことなの!?
とんでもない励ましを受けた気がして、焦りながら茉理ちゃんを見る。
すると親指を立てながら頷いていて、やっぱりそういう意味での励ましみたいだ。
「そんなぁ……」
ため息のような情けない声が漏れた。
渡すって決めたのだから、いつかは緊張してでもナツくんと向き合う場面になる。
それは十分、わかっているのだけど……。
あまりにも突然、しかも落ち着くのでさえままならない状況に舞い込んできた機会に、わたしはどう動けばいいのかわからなくなってしまった。
そして覚悟が定まらないうちに、ふたりが2組の靴箱の前に現れる。
玄関ホールでかちこちに固まっているわたしの存在に、横峰くんが先に気づいた。
「あっ、平岡ちゃん、おはよー!」
「……おはよう、横峰くん」
茉理ちゃんと同じ元気な挨拶に若干圧倒されながら、緊張で引きつった顔のまま挨拶を返す。
横峰くんは上履きに履き替えると、そのままわたしの背後にいた茉理ちゃんのもとへと歩み寄っていった。
横峰くんがいなくなった視界の中に、ナツくんの姿だけがくっきりと浮かぶ。
先に口を開いたのはナツくんだった。