いつでも一番星
ナツくん、横峰くん、茉理ちゃんの3人は中学からの付き合いだと聞いている。なかでも茉理ちゃんと横峰くんは、小学校からの幼なじみだとか。
そのぶんだけ茉理ちゃんは、彼に対しては本当に手加減なしだ。
茉理ちゃんは猫背になっている横峰くんの背中をバシバシと叩いて活を入れる。
「ごたごた文句言うんじゃないの! 坂道ダッシュだって、大事な練習メニューなんだから」
「でもさ~……」
「それ以上なにか文句言うなら、ダッシュの時間1時間追加するけど?」
「スミマセン。喜んで部活行きます」
聖母も顔負けしそうなほどの満面の笑みを浮かべる茉理ちゃん。
さすがに横峰くんも、ダッシュ1時間の圧力には逆らえないらしい。
諦めた様子で、いそいそと部活へ向かう支度を始めた。
その態度の豹変ぶりが面白くて、スクールバッグを肩にかけながらくすっと笑ってしまう。
先に準備を終えて立ったまま横峰くんのことを待っていたナツくんの横顔にも、うっすらと笑みが浮かんでいるようにも見えた。
……って、わたしってば、なんでナツくんの表情を盗み見しちゃってるのよ!
自分の行動に突っ込みながら恥ずかしさがこみ上げてくる。
それを誰にも気づかれないように足早に去ろうとしたけど、思いがけない人の声で引き止められてしまった。
「……あっ、平岡さん。カバン、チャック開いてるよ?」
「ふぇっ!?」
ちょうど3人に背を向けたときだった。
ナツくんの声で突然そんなことを言われてしまうのだから、テンパって変な声が出てしまう。
はっ、恥ずかしい……。
カバンのチャックが開いたままなことよりも、テンパってしまったことが。