いつでも一番星


「だからね、泣いてたわけじゃなくて……。それが原因で、ちょっと涙が出てきてただけなの」


半ば仕方ないこととは言え、ナツくんに嘘をつくのは心苦しい。

それでも何でもないような顔で笑わなきゃ、きっと信じてもらえない。

だからわたしは、今できる精一杯の笑顔を向けた。

本当は泣いていたなんて、微塵も感じさせないように。さっき自然と生まれた笑顔とは違う、偽りのものを。

そうしないと、ナツくんはいつまでも心配し続けるだろうから。


……そう思ったとき、ふと。

ナツくんも普段、笑顔の一部はこんな気持ちで笑っているのかなって思えた。

自分の気持ちを押し殺すことになっても笑ってさえいれば、周りの人にはその隠した気持ちが伝わることはない。

だって見せられた笑顔が無理しているものだなんて、一見ではそう簡単にわからないから。
それにそもそも普段、人の笑顔が偽りだなんて疑ってばかりいるわけじゃないから、見破られらることが少ないだろう。


……でも、そんなの、つらくないの……?

そんな気遣いばかりで固めた笑顔。

相手を思いやる上で、ときには必要にだってなるかもしれない。

だけど自分の本音をすべて犠牲にしてしまう笑顔は、ただの苦しい仮面になってしまわないの?

本音を見せないってことは、相手と距離があるってことになる。打ち解けられていないってことだから……。


いろんな人に優しくて、慕われているナツくん。

だけどそんなたくさんの友達に、どれだけきみは素の自分を見せているのかな?

わたしが知っているナツくんは、ちゃんときみらしいありのままのきみなのかな?

何だか考え出したら……。

人気者のはずのきみが、ひどく孤独に思えてしまうよ――。


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