いつでも一番星


もしかして……。

ナツくんに本命チョコを渡したい女子から、呼び出されていたとか?

意識の奥底に眠っていたバレンタインの不安要素が突然目を覚ましてきて、さーっと血の気が引いていく。

だけどぎゅっと拳を握ったわたしの耳に届いたのは、お気楽な声色だった。


「ああ、自主練だよ」

「自主練って……ひとりで?」

「そうだよ。俺、部活が休みの日でも、たまに残って走ったりしてるんだ。学校なら外周とか坂道があるから、いろいろ走り方を変えて走れるから。今は春に向けてちょっとでも下半身の強化をしておきたいし、学校で走るのが一番いいんだよ」


清々しい表情で話すナツくんの横顔が、西日に照らされて淡く輝いていた。

自分がやるべきことのために一番いい方法を選んで、自らそれに取り組む姿勢は、ナツくんらしいと思えるもので。

色恋沙汰で杞憂していた自分が恥ずかしくなってしまう。

でも、安心したのも確かだった。


そっか、そうだったんだ……。

ナツくんがすぐに帰らずに自主練をしていたならば、いろいろと辻褄も合う。

教室を出てから玄関ホールに降りる階段までの廊下で、ナツくんに追いつけなかった。……その原因は恐らく、ナツくんがその廊下の中間にある別の階段ですでに下の階に降りていたからだろう。

部室の鍵を借りに職員室に向かうなら、その道が手っ取り早いから。さっき玄関ホールに現れたのも、鍵を返しに行った帰りだったに違いない。

何はともあれ、とりあえず、予想していた嫌な結末じゃなくてよかった……。


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