いつでも一番星
「はい、茉理ちゃん。わたし全部終わったから、終わりそうにないなら写してもいいよ。答えは間違ってるかもしれないけど」
すべての問題を解き終えたばかりのプリントの束を、茉理ちゃんの前に差し出す。
すると固まっていた表情が、今にも泣き出してしまいそうなくしゃくしゃとしたものに変わった。
「うわーん! ありがとう雫! 雫は心の友だよ! 救世主だよー!!」
「そんな大袈裟な……」
洟をすすりながらテーブル越しに抱きついてくる茉理ちゃんを受け止めて、その背中をぽんぽんとあやすように叩く。
早く課題を写すように促せば、茉理ちゃんは何度もありがとうと言いながらプリントの解答を写す作業に入った。
……やれやれ。
必死な形相で手を動かす茉理ちゃんを見て、ふうっと息をついた。それと同時に、身体が凝り固まっていることに気づく。
それもそうだ。
さっき茉理ちゃんが声を出すまでのかれこれ1時間は集中してテーブルに向かい、課題に取り組んでいたのだから。
ぐっと伸びをしてちょっとした解放感を味わいながら、わたしの部屋の出窓に目を向ける。
窓ガラス越しに見える花曇りの空に、そっと目を細めた。
桜の蕾が綻び、薄ピンクの花が町中でちらほらと目立つようになってきた4月上旬。
今日は春休み最終日で、明日には新学期を迎える。
高校生活最後の1年が、始まるんだ。
そんな新たな始まりを明日に控えているわたしたちだけど、まだまだ高校3年生になるという実感が湧かないのが現実で。
最高学年としての余裕などはなく、春休み最終日になって慌てて課題を終わらせるというパターンは、例年通りのお決まりのものだ。