いつでも一番星


数少ないナツくんとの思い出のひとつ。

それが遠ざかって霞んでしまわないように何度も頭の中で記憶を再生しながら、考えていたことをゆっくりと話す。


「……そのことをね、以前ナツくんと話したことがあったの」


なんてことない会話の一部分だったそれを、ナツくんが覚えているとは限らない。

でもわたしは、覚えていた。好きな人の好きなものだから、覚えておきたかった。

それに何より、嬉しかったんだ。
自分の好きなものを、好きな人も同じように思っていることが。


些細なことでも同じ部分があることが嬉しくて……。ナツくんに、その好きなものをまた渡したいと思って……。

わたしは、こっそりと隠すように使った。

バレンタインデーのときに渡したチョコバーに、オレンジピールを混ぜるといった形で。


ナツくんの好きなものだから、わざとオレンジピールを使った。
そのことにナツくんが気づいてくれるとは限らないし、オレンジピール自体の存在に気づいても、ただなんとなく入れた材料の一部と思って終わる可能性の方が断然高かった。

だからわたしの独りよがりな行動に気づいてくれなくても、それは仕方のないことだと思っていたのだけれど……。


「……ナツくん、わたしが言ったこと覚えてくれてたのかな。だから、オレンジ味の飴をくれたのかな……?」


ナツくんからのお返しの小瓶を両手で包み込みながら、期待の思いを含めた疑問をこぼす。
わたしの憶測は少なからず間違っていないって、茉理ちゃんの考えを聞いて自信を持ちたいその一心で。


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