いつでも一番星
「もう、サトちゃんってば。いきなり背後から話しかけないでよ」
「えー、ちゃんと最初は隣から話しかけたよ。でも雫ちゃん、ずっとあの人のこと見つめて上の空だったから。だから仕方なく背後から、ね?」
語尾で、仕方ないことだった、と強く訴えてくる。
そうされても小さな不満は残ったままだ。
だって最初から隣に座ってたのに、わざわざ背後に移動して脅かす必要なんてないんだもの。
言葉の代わりに頬を膨らまして不機嫌さを伝える。
でもサトちゃんはそんなの気にしていない素振りで、机の上での作業に戻っていた。
だからわたしも仕方なく、自分の作業に戻る。
ギンガムチェックの布地を取り出して、裁断を始めた。
でも途中まで裁ちばさみを動かしたところで、ついつい余所見をしてしまう。
家庭部の活動場所である、1階の被服室。
その窓際の席からは、グラウンドがよく見えるんだ。
被服室前のグラウンドの隅で練習をしている、野球部の姿が……。
グラウンドに視線を向けると、被服室から少し離れた場所にいたナツくんの姿を見つける。
ちょうど、ポール間をダッシュしているところだった。
走っているときのフォームも、ナツくんはやっぱり綺麗だ。
いつ見ても、疲れてきたと思われる頃でも、その姿を保ったまま。
思わず、すごい、と小さく声を漏らしてしまった。
それに気付いたサトちゃんが素早く反応する。
でも今度は隣に座ったままで、なおかつ小声だった。