いつでも一番星


「雫ちゃんも、森山くんの名前呼んだら?」

「えっ! そ、そんなのおこがましい気が……」

「なんで? みんな普通に声かけてるし、そんな遠慮することないよ。ほら、せっかく応援しに来たんだからアピールしなくちゃ!」

「アピールって……あっ、ちょっと!」


恥ずかしい思いがあって遠慮したがっているわたしの手首をサトちゃんが掴んできて、強引に手を高く挙げられた。そしてそのまま手を振らされる羽目になる。

サトちゃん自身も空いている手をわたしと同じように高く挙げて振っているけど、目立ってしまいそうな行為にやっぱり羞恥を覚えてしまった。


「……あっ」


そんな中、ふと。

観客席の下にいるナツくんと視線が交わったような気がして、身体が動きを止める。

もうサトちゃんは手を離してくれているのに、中途半端に手を挙げたままの体勢で、ナツくんから目を離せなくなった。


「あれ、森山くん、雫ちゃんに気づいたんじゃない?」

「そうかも……」


てっきり目が合ったのは気のせいかと思ったけど、どうやら勘違いでもなさそう。

わたしが座っている観客席の上段に向かって、ナツくんが軽く手を振る。

試しにわたしも止めていた手をナツくん向かって振り返してみると、今度は笑みを添えて振ってくれた。

そのやわらかな笑みを見て、ナツくんが明らかにわたしに気づいていると確信できた。


「……っ、」


見つけてくれた。このたくさんの人の中からでも、わたしという存在を。

たまたまかもしれない。でもその小さな偶然でさえ、ナツくんが起こしてくれた奇跡のようでとても嬉しかった。


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