いつでも一番星
話しかけてくれたから、わたしに何か用事があるのかなって思ったけど……。そんな、都合のいい話はないよね。
普段、わたしたちの接点なんてないに等しいのだから。わざわざ訪ねてくるような用事なんて、そうそうないに決まってる。
ひとりで期待して無駄に落ち込んだものの、気を取り直して、横峰くんを探すように廊下の方を確認している横顔に尋ねた。
「横峰くんに用事があったの?」
「そうなんだよ。あいつ、朝練のときに部室に部誌忘れてってさ。今日担当なのに朝練のこととか書けないと困ると思って、あとで気づいた俺が代わりに持ってきたんだけど……」
よくよくナツくんを見ると、手には土埃で薄汚れているグレーの厚紙の冊子を持っていた。それが、野球部の部誌らしい。
今朝は本来持っていくべき相手に忘れられて、今もその人物が行方知れずのそれは、何だか寂しげにナツくんの大きな手の中に収まっていた。
「1組の他の野球部のやつに頼めたらよかったんだけど、そいつらもいないんだよな。もしかすると、唯斗と一緒にいるのかもしれないけど」
「そうかもね。横峰くんがいつも一緒にいる人たちもいないような気がする……」
確か横峰くんは、いつも野球部らしき坊主頭のグループと一緒に行動していたような気がする。
その男子集団が今はいないし、みんなでどこかへ行っているんだと思う。
「次は移動教室でもないから、待ってたらすぐに帰ってくるんじゃないかな」
「そうだよなぁ。じゃあ、ちょっと待ってみるよ」
ナツくんはそう言うと、腰の高さほどあるサッシの部分に肘をついた。