いつでも一番星
「雫ちゃーん。そこにいるついでに、カーテン閉めてくれるー? 今日はもう全員帰るみたいだからさ」
「はーい」
窓際の席で片付けをしていると、部長にそう声をかけられた。
確かに周りを見ると、全員が片付けの最中だ。
もはや数人は先に帰ったらしく、姿が見当たらない人もいる。
材料の布地と羊毛、それからソーイングセットなどの道具を布バッグにしまったあと。
カーテンレールの端からカーテンを閉め始めた。
その途中、何気なく日が沈んだ空を見上げる。
空の上部はすっかり夜の気配に変わっていたけど、まだ空の端には眩しい夕焼け色の光が残っていた。
東の空の方には、3つほど星が見え始めている。
「……一番星、見逃しちゃったなぁ」
「一番星?」
一人言のつもりで呟いた声は、反対側からカーテンを閉めていたサトちゃんに聞こえていたらしい。
わたしと同じように、カーテンの裾を捲った隙間から窓の外を見上げていた。
その横顔に尋ねる。
「サトちゃん、知ってる? 一番星の祈りの話」
「一番星の祈り? 知らないなー。なんなのそれ」
小首を傾げたサトちゃんに、わたしは空を見上げながら話した。
「おばあちゃんに聞いた話なんだけどね。毎日一番星に祈ってたら、願い事が叶うんだって。どれくらいの期間祈ればいいのかは、願い事によって変わるみたいだけど」
「ふうん。そんな迷信があるんだね。それなら結構簡単そう。毎日祈ればいいだけだし」
「それがね、意外と難しいんだよ? 一番星だけが空にあるときに祈るのって。気がついたら、他にもたくさん星が出てたりするから……」
楽観すぎるサトちゃんの考えに苦笑しながら、もう一度空を見上げる。