いつでも一番星


「もしかして、願い事もないのに祈ってるの?」

「……おっ、おっしゃるとおりです」

「なにそれ! それ、祈る意味あるの?」

「わかんない。おばあちゃんに話を聞いた小さい頃から祈ってたから、癖になっちゃってるのかも。願い事がなくても祈ることが」


まだ、幼稚園児だった頃。
ひとりっ子だったわたしの遊び相手は、おじいちゃんとおばあちゃんだった。両親は共働きだったから。

一番星の祈りの話を聞いたのは、そんな頃。
おばあちゃんと公園に遊びに出かけた帰り道に、空にひとつだけ星が浮かんでいた。


『あっ、一番星が出てるねぇ』

『いちばんぼし?』


“一番星”という星の存在をまだ知らなかったわたしに、おばあちゃんは説明してくれた。
そして祈りの話も、教えてくれたんだ。

当時はまだ、祈ることも、願いが叶うということも、よくわかっていなかったと思う。

ただ、空にひとつだけ輝く星が、とても綺麗に見えたことは覚えてる。


『一番星、見ーつけた!』


だからそれからのわたしは、一番星を見つけることが楽しみになっていた。

毎日夕方には窓辺に張りついて、夕暮れの空を眺めていた時期もある。


毎日一番星を見つけられたらいいことがある、っていうような認識だったけど。
それでもいつしか、一番星に祈ることがわたしの中で特別なことになっていた。

それは今でも変わらない。
願い事らしきことを胸に抱いていても、抱いていなくても。

一番星のあの輝きを見つけること自体に、わたしは心を奪われているのだから。


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