いつでも一番星


わたしに歩み寄ってくるナツくん。

何事かと思って固まっていると、左手から問題集をするりと引き抜かれた。


「あっ、」

「仕事、二手に別れよう。時間もあんまりないし。俺が問題集を集めて持って行くから、平岡さんは黒板を消しといてくれる?」

「えっ、でも……。ひとりで持って行くの大変じゃない? 問題集、結構分厚いし」


ナツくんの左手に収まった2冊の問題集。

いくら骨格が浮き彫りになっている大きな手の中にあっても、問題集の厚みはなかなかあるように見えた。

これをクラスメート40人分重ねて、ひとりで運ぶだなんて……。

さすがにナツくんひとりにその役目を任せるのは、なんだか無慈悲な気がする。

そんなナツくんの姿を想像して眉を下げると、ナツくんは力強く頼もしい目でわたしを見た。

どうやら考えていたことに、ナツくんは気づいたらしい。


「心配しなくても大丈夫だって。問題集ぐらいひとりで持てるから。俺はむしろ、平岡さんがちゃんと黒板を消せるか心配だよ」

「えっ!」


くすっと笑ったナツくんのせいで、一気に赤面した。

だってそれは、明らかに今朝の失態を見たからこそ出てきた言葉だったから。

あんなこと、早く忘れてほしかったのに……。

まだ覚えてたなんて!

ナツくんの中で印象深く残っているのかと心配すると、余計に恥ずかしくなった。


「じゃあ、黒板よろしくね」


ナツくんはまだ少し顔に笑みを浮かべたままそう言い残すと、さっそくクラスメートに声をかけて問題集を集め始めた。


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