いつでも一番星
「りょーかい! 監督にはちゃんと言っとくから、どうぞごゆっくりー。ほら唯斗、行くよ!」
「うわっ、引っ張るなって!」
茉理ちゃんは横峰くんの腕を強引に引っ張って、そそくさと教室を出ていった。
去り際に茉理ちゃん特有の下手なウインクをしていたけど、たぶんあれは“頑張れ”って意味だろう。
……ああ、勘違いしたままなんだね。
茉理ちゃんに余計な勘違いをされたままなことに気づいて、苦笑いが思わずこぼれた。
「沢谷、やけに急いでたな……」
「う、うん。そうだね……」
茉理ちゃんのあからさまな態度に、さすがにナツくんも疑問を抱いたらしい。
だけど不思議そうに考えこんでいたのは一瞬で、すぐに思考を切り替えた。
「まあ、さっさと書いて終わらせようか」
「……うん」
ナツくんは預かってくれていた日直日誌を机の中から取り出すと、椅子に横向きに座ってわたしの方を向く。
開いた日誌をふたりで覗き込むと顔が近づいて、思いがけない近さにたじろいで身を引いた。
些細なことに過剰に反応する心臓が痛い。
おっ、落ち着けわたし……!
いくら憧れの人が目の前にいるからって、こんなに慌てる必要なんてないじゃない!
それにこんなことでいちいち動揺してたら、ナツくんに変に思われちゃうよ。
だからおさまれ、わたしの鼓動!
ひとりで悶々と自分の心と戦っている間に、ナツくんは先に日誌に記入を始めていた。
日付や天気をすらすらと書いていく。
その姿を見て座っているだけの自分に気づき、何もしていないことが急に申し訳なくなった。