いつでも一番星
ゆっくり歩いているつもりでも、確実に迫ってくる教室にばくばくした。
高まる緊張に表情を強張らせる。
教室のドアの数メートル手前で、茉理ちゃんがおおらかな笑顔を向けてきた。
「そんな緊張しなくても、どうにかなるって! 席だって前後だから自然とナツを視界に入れることになるし、いい荒療治になってよかったじゃん!」
「ううっ、そうだけど……」
茉理ちゃんは励ましのつもりでそう言ってくれているんだろうけど、席が前後という要素は余計にわたしを緊張させた。
ただ、憧れていたときは。
ナツくんの真っ直ぐ伸びた背中を眺めるのが好きだったのになぁ。
今日からはきっと、あの背中を見つめるだけで心の中が忙しくなっちゃうよ。
そんな未来を想像したところで、茉理ちゃんが先に教室に入る。
わたしもドキドキしながら教室に入り、教室後方の自席に足を運ぶ。
わたしたちよりも先に教室に来ていたナツくんは、席に着いたまま横峰くんと話していた。
その姿をちらりと確認してから、机のサイドに荷物をかける。
すると、ふと。
横峰くんに向けられていたはずのナツくんの目線が、座ろうとして椅子を引いたわたしに向いた。
ドキン……!
丸い瞳に捕まって、座ろうとしていた身体の動きが止まる。
ナツくんが、ごく自然に笑って口を開いた。
「おはよう、平岡さん」
「……っ、おっ、おはよう……」
不意打ちな出来事に声が詰まったけれど、なんとか挨拶を返した。今にも消えてしまいそうな、弱々しい声で。
……だって、思ってもみなかったんだ。
こうやって、ナツくんから挨拶をされるなんて。