梅酒で乾杯

『大丈夫大丈夫』
こんな呪文を唱えるようになったのも、この頃からだ。

『あたし』が芽をだしたこの部屋に、彼がやってきては肥料を与えてくれた。

落ち込みがちなあたしを励ますように、毎晩夕食を食べに来て、翌日に用事が無い日は泊まっていって。

そうして彼が与えてくれる栄養で、あたしはすくすくと育った。

お陰で、あたしはようやく自分の引いたレールからはみ出した人生を生きていく決意ができ、外に目を向けられるようになった。


とは言えいきなり正社員で働けるほど社会復帰もできていないので、まずはコンビニのアルバイトから始めたわけだけれども。

自分で料理、洗濯、掃除なんかをして、仕事をしながら暮らす。

そういう暮らしは大変だけど、確実に身になるものがあった。


今ではスローライフよろしく色々なものを自分で作って暮らしている。

きゅうりとかミニトマトだって、ベランダのプランターで作っているし、日曜大工的な仕事もできるようになった。

この暮らしが性にあっているのだと思えるようになったのは最近のことだ。



「さーてと」


炊飯器でご飯を炊く。
後は少し時間がかかるし、今日は冷凍食品を食べなきゃいけないからおかずは作らなくてもいい。
お味噌汁だけを手早く作って、ご飯が炊きあがるまでの余った時間はテレビを見ていた。

そうしているうちに、ウトウトとしてくる。

路上運転で緊張したしなぁ。
電柱にぶつかりそうになって、ブレーキ踏まれたんだ。

この話、亘にしたらなんて言うだろう。
「あぶねーよ」って叱られるか、それともただ笑われるかな。

「実加らしいな」って言われたら、……嬉しいなぁ。


< 10 / 37 >

この作品をシェア

pagetop