梅酒で乾杯
* * *


「……か、実加」

「……ん?」


体を揺さぶられて目が開いた。するとあたしを覗きこんでいる彼と目が合った。


「あれ? 亘?」

「風邪ひくぞ。俺が入ってきたのも全然気づかず寝てたな」


亘はそう言うと、上着をハンガーにかけ、ネクタイを緩める。
外は真っ暗。カーテンが開きっぱなしだから外から丸見えだ。


「おかえり。……今、何時?」

「もう二十時だぞ? いつから寝てたんだ?」

「あー、いつだろ」


まだ目覚めきらない目をこすりながら、カーテンを引いてくれる亘を眺める。
すると彼もあたしをマジマジと見た。


「……髪切った?」

「あー。そうだった」


慌てて前髪を隠す。格好わるい前髪。せめてもうちょっとヘアピンか何かで着飾っておけばよかった。
すると彼は笑ってあたしの手を引っ張った。


「隠さなくても。可愛いじゃん」

「だって、前髪が」

「これはこれで似合う」

「嘘っ……っん」


最後まで言えなかったのは彼の唇が私のそれを塞いだからだ。コーヒーの味がする。お仕事中に飲んだのかな。


「亘、夕食は?」

「……ん、まだ食ってない。でも今はこっちがいい」


再びキス。唇に、頬に、瞼に。
減ってるはずのお腹が一杯になってくる。

肉食系って言うほどじゃないだろうと思うけど、亘は時々こんなふうに求めてくる。
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