梅酒で乾杯

「あれ、珍しい。今日冷食?」

「うん。冷凍庫空けたかったの」

「なんで」

「梅を凍らすんだよ。梅酒作るの」

「なんで凍らすんだ?」

「だってほら、ここに書いてある。一晩凍らせた方がいいんだって」

「へぇ」


まだ疑問気な彼をよそに、冷蔵庫からビールを取り出してグラスについだ。
二人で食べるときは、必ずお酒も一緒に飲む。


「はい、乾杯。いただきます」

「いただきます」


グラスをカチンと鳴らして、ビールと共に箸を進める。


「……なぁ。そう言えば、この間同期と飲み会したって言ったじゃん」

「うん」

「その時行った店、雰囲気が落ち着いていてよかったんだよ。今度行かない?」


一瞬体が竦む。
飲食店とか酒場とか、そういう場所はあまり得意じゃない。

人の笑い声が多くて、鬱期間の感覚が戻ってきそうで怖い。
自分が、他人と違う事を目の当たりにするのが怖い。


「えー。外で飲むのか……。いいよ。お金ももったいないし、家で」

「おごってやるよ。実加もたまには洒落っ気だして外に出よう?」

「う、うん。でも」


ためらいがちなあたしに、亘の顔が陰る。

折角誘ってくれてるのに、こんなんじゃダメだなぁ。
亘はあたしのリハビリのつもりで言ってくれてるんだろうし。

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