梅酒で乾杯
速度
翌朝、あたしは用意していた瓶に、梅、氷砂糖、梅、氷砂糖の順で敷き詰めた。
上からホワイトリカーをどぼどぼと流し込むだけで出来上がり。
「これで二ヵ月待てばよしと」
パチンと手を叩いて、満足気にその瓶を見つめる。
梅酒作りの手間は最初のヘタ取りくらいだろう。
後はこれだけの作業と二ヵ月という時間さえかければ立派な梅酒になる。
これで亘と乾杯しよう。毎晩のご飯のおともにするのだ。
いつもビールばかりだけど、あたしはビールよりは甘いお酒のほうが好きだ。
今日は午後からバイトがある。午前中は自動車学校に行くつもりだ。
今年のうちに免許を取りたい。ようやく上向きになってきた機運を逃したくないのだ。
ほぼ丸二年、あたしは家に引きこもっていた。
ようやく前を向けるようになってきて一年と少し。
今年は特に色々な事をやりたいと思えるようになってきた。
彼はあたしが外の世界と触れあう事を喜んでくれる。
それはバイトだろうと、自動車学校だろうと、美容院だろうと。
笑ってくれるその顔を見る事が出来たから、あたしは少しずつでも前へと進めているのだ。
自動車学校では、泰明くんには会わなかった。
午前中はきっと講義があるのだろう。午前に来た時は会う事が少ない。
子犬みたいな泰明くんがいないと少し物足りない気はするけど、贅沢言ってはいられない。
でも調子は上がらないまま、その日は合格のハンコをもらえなかった。
曇り空を見上げて、大丈夫大丈夫と呟くも、青空じゃないから逆に気が滅入ってくる。
ため息を付いてバイト先に向かった。