梅酒で乾杯
タイムカードを押して裏口からでて、店内にいる亘を手招きする。

ダークグレーのスーツの亘は、その年令よりも大人びて見える。
今のあたしはTシャツにチノパン。一緒に歩くのも恥ずかしいくらい。


「ちょっと家によって着替えてもいい?」

「ああ。可愛くしてこいよ」


亘はスーツだから、それに見合うような格好しなきゃ。
でも、あたしはスーツなんか持ってないしなー。


持っている服の中で一番可愛いひらひらのスカートとカットソー。
そして普段はしないアイメイクをしてみる。
ちょっとは大人っぽくなったかな。
でもこうして見るとやっぱりパッツンな前髪が失敗だった。幼く見える。

気がつけば十五分位かかってしまって、慌てて玄関先で待っているはずの亘を探すも、見当たらない。

あれ? 外に出ちゃった?

胸がざわついて急いでドアを開けると、亘は壁にもたれかかって電話をしていた。


「うん。悪いけど。……はは、じゃあまた来週」


亘はあたしに気づくとひらひらと手を振って話をまとめた。


「……電話してたの? お仕事?」

「会社のやつ。急遽飲むことになったから来れないかって。今日は彼女とデートだからって断った」

「なんだ、そっか」


ホッとして胸をなでおろす。そしていつもと違う格好の自分を思い出して、伺うように亘を見上げた。
彼はそんなあたしに気づいてか、「可愛くなったじゃん」と笑う。


「さ、行こう。電車乗るぞ」

「うん!」

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