梅酒で乾杯
亘のお陰でウキウキした気分になってきた。実は電車に乗るのも久しぶりだ。大きなデパートに行きたいとか言う訳でも無ければ、コンビニバイトがメインの仕事のあたしには遠出する理由がない。
電車は夜でもまだ人が一杯で、あたしたちは立ったままつり革に体重をかける。
「金曜だから人が多いな」
「……うん」
車内の一角に学生さんらしき集団がいて、時折わあっと歓声をあげる。座っている会社員風のおじさんが迷惑そうな顔で視線だけを送っていた。あたしはその声に、何故かビクリとして心拍数が上がってくる。
「ここで降りるぞー」
亘は軽い調子でそう告げ、あたしの手を引っ張った。
駅の改札を、構内を、そして抜け出た夜の街を、彼に手を引かれて歩く。
ずっと部屋の中でばかり会ってたから、こういうデートは久しぶりだ。
亘も楽しそうに、鼻歌なんか歌っている。
この人は、こういう風に歩くのが好きだったんだ。
彼の横顔を見ながら、ふとそう思った。
今まで家でばかり会っていたのは、外に対して臆病になってるあたしの為だったのだろう。
亘にとっては、今日の誘いは勇気のいるものだったのかも知れない。