梅酒で乾杯
連れてきてくれたのは、奥まった場所だけれど雰囲気の良いバーだった。
看板には英語の文字があったけど、あたしには読めない。
亘に尋ねたら、「俺も読めん!」と笑われた。
釣られて笑いながら、凄く気分が高揚している自分に気づく。
嬉しいな。
亘がいつもより楽しそう。
笑ってくれると、こんなに嬉しいんだなぁ。
お酒なんかよりずっと気分を高める効能があるのかも。
店内は薄暗く、それぞれのテーブルの上に照明があるからか、一つ一つが別世界みたいな感じで。
あたしたちはカウンターに座ったけれど、ウェイターさんがあたしと亘の間に小さなランプを置いてくれたので、あたしたちの空間と思えるような雰囲気になる。
奥にあるステージからはピアノがあって、よく見たら今店内で流れている音楽はその生演奏だった。
亘が先日来た時に飲んだというカクテルを頼んでもらい、その綺麗なオレンジのカクテルを眺めながら大人っぽい雰囲気に酔いしれる。
「ここ、金曜は生演奏があるんだよ。ギターの時もあるんだけど、今日はピアノだな」
「うん。すごく上手だねぇ」
「実加はうるさいの苦手だけど、こういう雰囲気は好きだろ?」
「うん」
あたしの事をいつも考えてくれる亘。
優しくて温かくて、世界で一番大好き。
穏やかにグラスを傾ける亘を見ながら、あたしはほのかな幸せに浸っていた。