梅酒で乾杯

彼らの会話についていけず、上がった心拍数を戻すことが出来ないまま、あたしはただ自分の指先を見ていた。
震えてくるのが分かって、それを押しとどめるだけで精一杯。

その時だ。


「あの、邪魔しちゃ悪いから奥の席行こうよ」


天の助けのような声に、あたしはホッとして顔をあげた。
盛り上がっている会話に水を差したのは、丸顔でトップの髪を一つにまとめた真面目そうな女の人だ。


「えー。いいじゃん高里。ね、いいよね、えっと実加ちゃん?」

「うるさい安井。そうだな、俺たちデート中だから、あっち行け」

「やーん。近藤くん冷たーい」

「ほら皆、行こうよ」


高里さんと呼ばれた女の人のお陰で、騒がしさは遠くのテーブルの方に移った。

だけど、なぜだろう。空気が薄く感じる。
さっきまであんなに落ち着いていたのに、息が苦しくなってきた。

速さが違うんだ。
これが一般的な若者の速度だと言うのなら、あたしは明らかに一般じゃない。

補給するべき酸素の獲得競争に負けたみたいに、苦しくて息が詰まる。


「実加? 大丈夫か?」


亘の声はいつものように優しい。
だけど違う。気づいてしまった。

亘はこっちの人じゃない。
あっちの、キラキラした世界の人の仲間だ。


「亘」

「疲れたか? ……帰るか?」

「……大丈夫」


なんとか息を整えて、グラスを空にする。

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