梅酒で乾杯
アパートまで送ってくれた亘は、そのまま中に入り込んで玄関の鍵をかけた。
「今日は泊まってく」
「え?」
「心配だから」
電気のスイッチを入れたけど、背中になっている蛍光灯の明かりは却って亘の顔に影をつけてしまった。
「どうして?」
「……無理させた」
亘の顔が悲しそうに歪んでいて。あたしはそれが悲しい。
「そんなことないよ」
「まだ早かったかな。外で飲んだりは」
「……大丈夫だってば」
まだ微かな震えは止まらないし、あの人たちのことを思い出すと心がモヤモヤと曇ってくる。
それでも、また引きこもろうとは思わないくらいには図太くなったんだから大丈夫。
「……笑ってよ」
あたしは泣きたくなりながら、彼の頬を自分の両手で包んだ。
どうして分からなかったんだろう。
あたしを守ろうと、自分の楽しさを押し殺して接してくれていた彼とあたしは、もう対等ではなかったんだ。
歪みに気づいて。
それでも今は指摘する勇気はない。
あたしは常にゆっくりだから、この気持ちを受け入れるのにも時間がかかる。
せめてそう、梅酒が飲めるようになる頃まで、お願いだから亘は気づかないで。