梅酒で乾杯
「実加?」
「あたしは人よりずっとずっとゆっくりだけど、何もできない訳じゃないの。自分の足で生きていくことも、もうできるよ。そこまで亘が引き揚げてくれたから」
胸にこみ上げてくる想い。
まだ待ってね、湧き出てこないで。
亘にちゃんと笑いかけたいの。
「……実加」
「亘、他に好きな人いるんじゃないの?」
流石に声が潤んだ。
責めているのかと思われたくないから、必死に笑顔をつくる。
「最近部屋にも来ないし、エッチもしなくなった。だけどあたしにそれを告げて壊れたら困るから言えないんでしょ?」
「実加、俺は」
「亘のせいじゃない。仕方のないことだと思ってる。だって違うんだもん」
「……何がだよ」
「速さが」
うっすら浮かんでくる涙をなんとか押しとどめる。
泣いたら心配されちゃう。
あなたのしょげてる顔を、見るのは嫌よ。
「あたしたち、もう同じ速さで歩いてないの。亘だって気づいてるんでしょ?」
亘の顔が寂しそうに歪む。
変化を悲しんでくれるのは、あたしへの最後の愛情なのだろうか。
あたしは振り切るように、言葉を紡いだ。