梅酒で乾杯
「彼氏、社会人なんだね」
「うん。今年からね。実は泰明くんの大学出身なんだよ」
「センパイかぁ。そうかぁ」
あたしは、昨日会った彼の姿を思い出した。
短く切った黒の髪、優しさをにじませた口元に二重のくっきりした瞳。肩幅が強調されるスーツ姿はそれだけで格好良く見える。
かれこれ付き合って五年目にもなるのに、またドキドキするようになってしまった。
「あ、顔赤くなってる。かわいーな実加さん」
目ざとくからかい出す泰明くんに、あたしは反撃を仕掛ける。
「もう冷やかさないでよ。泰明くんは? 彼女いないの?」
「うーん。俺はそういう特別っぽいの苦手だから。皆でワーワー騒いでる方がいいかな」
「ふうん」
男の子なのにタンパクだなぁ。でも、それが似合ってるなとも思う。
泰明くんはあんまり男臭がしない。どちらかと言えば、ペット臭がする。
一緒に居てもまるで飼い犬と一緒に居るような感覚。
だからついつい、気楽で長話をしてしまう。
バスのエンジン音が聞こえて顔をあげると、教習所のバスがあたしたちを見つけて停まった。
「俺今日から路上なんです」
「あたしも二回目だよ。ほぼ一緒だね」
「ホントだ。なんかうれしーっすね」
「うん」
一緒に乗り込み、二人がけの席に並んで座る。
彼氏でもないのにね、とは思うけど。
泰明くんといるのはとても居心地がいいから、まあいいかなとも思ってしまって。
「また帰りのバス一緒になるかな」
「そうですね、多分」
「じゃあいっしょに帰ろ?」
「そうっすね」
こんな感じで、いつも一緒に過ごしてしまう。