梅酒で乾杯

この先の展望も希望も何も見えない。
きっと彼にもフラれる。二度も受験に失敗するようなあたしなんて。

会うのも怖くなって、メールにも電話にも出なかった。

そんなあたしをけなすわけでもなく、彼は毎日のように家にきてくれた。

八つ当たりだって、たくさんしたのに。
自分だって、ゼミやバイトで大変だったのに。

毎日やってきては「顔を見にきたよ」とだけ言って帰っていった。


「……いつまで続けるの?」


彼がそんな行動を半年ほど続けた頃、あたしは聞いた。


「実加が自分からでてくるまで」


まるで、生まれてくる赤ん坊を待ってるような言い方だった。
いつか必ず出てくることを疑いもしないような。

その日あたしは、自分が情けなくて悔しくて泣いた。
それでも、いつかを信じてくれていることがひどく嬉しくもあって。
あたしはそんな彼の行動に生きていく力を少しずつ貰って、穏やかな精神を取り戻すことができた。


そして昨年、年の離れた兄が結婚して実家に住むようになり、必然的にあたしは家を出た。

その時借りたのがこの部屋。もちろん、理由が理由なので部屋代なんかは親が持ってくれた。

初めての、自分だけの部屋。
それは、新しいプランターに似ていた。

プランターに種を植えるように、あたしはここで新しいあたしを育てようと誓った。

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