恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
いつも同じ時間に鳴く犬。時に走ったりする。私は、なんとなく気配を感じて寝室のドアを見た。
開け放していたドアは、ぴたりと閉まっていた。
ーーー課長が閉めたのかな?
首を伸ばしてドアの下の方を見る。
やはり、黒い塊りがあるのだ。それは、うっすらと何かの形になったようにも見える。
ーーーうそ! あるじゃん! っていうか動いてるじゃん。
ドアの下には、黒い塊りが動いて確かにそこに存在しているようだ。
ーーーな、何よ! アレ!
全身に鳥肌が立ち、あまりの怖さに私は声も出せなくなっていた。
その時、私の指はグッと掴まれていた。
見ると、黙って課長が課長の肩に乗せていた私の手を握りしめている。そして、課長の視線は、やはり私と同じ方向を向いていた。
「……」無言で、黒い塊りから目を離さずにゆっくり起き上がる課長。
起き上がってから、私をぎゅっと抱きしめて「俺の後ろにいろ」耳元で課長が囁いた。
課長の体が硬直した私の前に出ていき後ろ手に私の手を握りしめる。
私は、ただ課長の背中に張り付いて小刻みに震えているだけだった。
ーーー怖いよ。怖すぎるでしょうよ……。
ありえない状況、見たことのないものを見て私は課長の背中に力一杯抱きついていた。
黒い塊りは、やがて犬みたいな形になり鳴き声を発した。こちらを向いて呼んでいるようにも感じ取れる鳴き方であった。
「……犬みたいだな……」
課長がつぶやく。
そんな課長のつぶやきには、到底答えられなかった。
ーーー犬。犬。なんで犬?!
黒い塊りが犬のようになり、ドアの前でさんざん吠えて突然ドアの向こうにスッと入っていき消えてしまった。
この奇怪な事態に私は、自分の涙腺が緩むのを感じた。