恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
犬のような黒い塊りと、鳴き声が止んでも私は課長の背中に張り付いていた。
とにかく怖かったのだ。
ーーー怖い。怖い。なんでよ。なんで私がこんな目に? 犬なんていじめてないし。
「行ったみたいだな」
呑気そうにつぶやく課長は、くるっと向きを変えて私をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だ。俺がいる。だから、もう泣くな」
「泣いてないですよ! 」
気がつかないうちに頬に伝っていた涙。その涙を課長の親指が拭い去る。
「泣いてないよな。誰も泣いてない」
もう一度私をぎゅっと抱きしめて、わたしの頭をくしゃくしゃとする課長。
「まだ、俺にいてほしいか?」
こくこくって頷く私の髪を抱きしめたまま撫でてくれる。
少しずつ気持ちが落ち着いてきたが、まだまだ相当怖くて課長に抱きついていた。
なのに……
上野課長は、こんな状況でも馬鹿な男だった。
「あんまり、ひっつくなよ。山田でも頼ってくるようなしおらしい態度だと……女だと感じて反応しちゃうだろ」
「なに?」
「それともこれもわざとか? 本の次は、抱きついてきて……それでも惚れたと言いたくないから態度でわかれ……そういうことか?」
「課長」
「ん?なんだ? ユイカ」
「最低!」
私は課長の体を両手でバシンと叩いて突き飛ばしたのだった。
★教訓
どんな状況でも男の軽薄さは、なおらない。むしろ、更に悪化する。
軽薄な男に余分な深入りは禁物だ。
常に距離を保ち薄い関係を保つべし。