恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜

ーーー何? 何なの、それ。俺だけに見せろ?


放っておかれ火にかけられたままのケトルみたいに私は頭から湯気を出しっぱなしで固まる。


「……今のもジョークだ。とにかく、今日はうちに泊まれ」

「へ?」

「犬がいる間は、うちにいればいい」

見上げると課長は、優しそうな笑顔を浮かべてみせる。

「あ、いやぁでも……」


ーーー上司の家に居候? それは、みんなの噂どおりになってしまう気がするし。


「着替えや何かも取りやすいし便利だろ?」

「確かに」
同じマンション内なら便利には違いない。だが……。


「じゃ、決まりだ。帰り少し待てるか? 一緒に帰ろうな」
課長が私の肩にポンと手を置いた。

それだけで私の体全体が熱くなっていく。

私は、今、変な感じだ。

こうして、上野課長に肩にポンって手を置かれ微笑まれただけで小さく胸に熱いものが込み上げてくる。

その小さな熱いものは、じわじわと体の中で大きくなり広がっていく。


それは、なんだか……何年かぶりに味わう淡くて切なくて甘い気持ちに似ていた。


ーーーまさか……私ってば……。

自分の気持ちが、あり得ない方向に動きつつあるのをどうにも認める気にならなかった。

それなのに、気づくと私は課長の後ろ姿を目で追っている。
しかも、他の人に遮られて見えなくなると首をあっちやこっちに忙しく動かしてまで見ようとしていた。






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