恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
「今、なんて言った?」
ーーーまた、確認? しつこい。
「行ってらっしゃい?」
鼻の下をのばしてニヤつく課長。
「おっ、なんか、新妻みたいだな」
「そ、そうですか? 古女房でも行ってらっしゃいくらい言うでしょう」
「古女房でも新しくてもいいけど、ユイカに送り出してもらうのっていうのも悪くない」
嬉しそうに笑う課長を見て、私の胸が予想外に熱くなった。
ーーー騙されない。口がうまい男は、ロクな奴じゃないって昔から決まっている。
「ここで忘れ物よって嫁ならキスをせがむだろうな」
まだ、玄関にいすわる課長が御託を並べる。
「嫁じゃないので」
「恋人でも言うだろう? 恋人の家に泊まった朝、彼を送り出すときに『キスは?』って」
「恋人でもないので」
「部下でも最近は」
「部下は、絶対に言いません!」課長がロクなことを言わないうちに私が突っ込みを入れておいた。
「ふん、まあいい。ユイカが素直になるのを待つことにする」
「そんなのいいから! もう、課長、遅刻しますよ! 」
「ん、じゃあ、行ってくる」
馬鹿馬鹿しいやりとりのあと、課長の背中を見送った私は心細い気持ちだった。
ーーー不安だな。いわくつきの家なら、どうしようか。不動産屋は、買う時に何も説明してこなかった。だから、安心してたのに。