恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
玄関先に出てきたのは、頭から足の先までずぶ濡れ。髪の毛が顔に張り付いて、あからさまに負のオーラを撒き散らしている……たぶん、人間だった。
あまりにもどんよりして、猫背で出てくるから何かの霊かと思ってしまった。
例えば、お化け屋敷に入る時、お化けが出るに違いない、それが当たり前なんだからと覚悟して入る。
出るかも……いや出て欲しいと、期待して入るものだ。
それで、お化けが出てくるとやっぱり出た! ってあらかじめ予想していたのに、何故か結構びっくりする。まさに、あの感じに似ていた。
もちろん期待などしてない。むしろ、出てこないほうが望ましい。
が、一応、霊がいるかもと覚悟してきた。
なのに、やはりドアから霊っぽいものが出てきて予想していたはずなのにびっくりしていた。
「阿部さんですよね?」
叫び声を上げる私を抱きかかえ、私の口を手の平で覆いながら、課長がどんよりして猫背の人に聞いていた。
ーーーあれが、阿部さん? うそ! ビショビショだし……待ってよ! ここは私の城よ? ビショビショで廊下歩いてきたの?
ふがふが言う私の口をますます強めにおさえる課長。
「何かあったんですね?……大丈夫ですか?」
びしょ濡れな阿部さんは、のっそりと動いた。
「……はい。……」
「入っても?」課長が聞くと、ゆっくり阿部さんが頷いた。阿部さんの髪、シャツの袖、ズボンの裾、至る所から水が垂れている。
「あう! あわ………ちょ……うぐっ!」
口を塞がれて、思うように話せない。
ーーーあんなに濡れて! 私の城なんですけど! どうしたら、こんなにびしょ濡れに? 霊のせい? こんなの酷い!
課長に抱えられて部屋に入り、そこで、更に愕然とした。