恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
変だ。
上野課長の箸を持つ手が気になる。細くて長い指が気になる。
目につく。
「こちらは、レトルトの麻婆ナスです」
「ナスか」
小声で呟く上野課長。
「ナス嫌いなんですか?」
試しに聞いてみた。
「まあ、言うほどのことじゃないし、仕事だ。食えない訳じゃない」
そういいながら、課長はため息をついていた。
「大丈夫です。任せて下さい」
私は、各部署にひと皿与えられた麻婆ナスを一気に平らげた。
「お前」
「美味しいです」
一気に平らげた所を見ていた社員に、
「あの、味わって下さいね。後で感想書いていただくので」と注意された。
「はい、すみません」
肩をすくめる私。
そんな私の頭をポンと叩いた上野課長。
見上げると、課長の優しそうな笑顔があった。
恥ずかしくなり、目を逸らした。
「…悪いな。山田」
ーーーお礼? そうかな?
課長を横目で見てみる。私の視線に気がついたのか、チラッと顔を向けた。
ーーーやだ! 微笑んだ? !
少しだけ、微笑んだように見えた上野課長。
あっ、胸が……。ドキドキしていた。
こんなことで、体の中から弾んで飛び出すみたいに心臓が存在を主張していた。