恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
「おい! 山田、戻って来い」
ドアを開けて、手招きする課長。
「……まだ、何か?」
課長の前に来ると、課長が私に何かを渡して寄越した。
見ると、乾麺の蕎麦だった。
「あの、これ? 悪いですよ。引っ越してきた私がお蕎麦頂くなんて……」
「誰がお前にやると言った? 交換が無理なら……山田、茹でて来い」
わが耳を疑った。
ーーー茹でて来い? まるで当たり前な仕事みたいに言ってるけど……なんで私が蕎麦を茹でて来るの?
「いやぁ、意味がさっぱり……」
「相変わらず、ものわかりが悪いな。いいか、一度しか言わない」
ボサボサ頭のくせに課長は、早口でまくし立て始めた。
「山田、お前は今から家に戻り、鍋に湯を沸かし乾麺を茹でて、出来上がり次第速やかに俺の家に持って来い」
「えっと、どうして私が?」
「お前は、いちいち仕事を与えられて、どうして私が?って考えるのか?」
「……いえ」
「だろ? なら、走れ」
「走るんですか?」
「山田〜〜〜」
眉間に皺を刻む課長。
「走りますよ! 走ればいいんですね!」
走り出してから、すぐに駆け足で課長の前に戻った。
「課長!」
「まだ、なんかあるのか? 山田」
「ダンボールを開けてなくて……鍋がすぐに見つからないと思います」
呆れ顏の課長。
「山田」
「はい」
「入れ」課長が体を壁の方へ寄せて、親指を立てて、くいっと中を示した。
「あの? 課長の家にですか?」