恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜

「2人の時は、男と女になるんだったよな?」


「そんなこと言ってません! タメ語でもいいことにしましょうよって言っただけです」

課長は私の手を握ったまま歩き出す。


「課長、手を離して下さいよ」

「寒いだろ?」

「寒くないですよ。まだまだ真冬でもあるまいし」

少し上を向いて考える風の課長。

「じゃあ、迷子になるだろ?」

「じゃあってなんですか! とってつけたみたいだし。私、大人なので迷子になりませんから」

手を振り払いたい私は、繋がれた課長の手をブンブンと振り回した。


「うるさいなぁ、俺に手を繋がれて文句言う女はいなかったぞ」

「あ〜、さぞかし従順な女ばかりだったんでしょうね?」

「お前が変わってるんだろが」

一向に離れない手を眺めながら、溜息を盛大についた。


「あ〜手がかゆい! ちょっとだけ離してください」

「どれ? 俺がかいてやる」
課長はブリーフケースを小脇に抱え私の手を掴んで掌をかきはじめた。

「課長、そこじゃないんです。もうかゆい、かゆい、かゆい!」
手を離して欲しくて、同じ言葉を連発していた。

「かゆい、かゆいって……お前の名前みたいだな。ユイカ…ユイカ……かゆいってな」


ーーー馬鹿げたことを言ってるよ。この人。

呆れてもう、どうでも良くなってきていた。
< 84 / 223 >

この作品をシェア

pagetop