恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
「2人の時は、男と女になるんだったよな?」
「そんなこと言ってません! タメ語でもいいことにしましょうよって言っただけです」
課長は私の手を握ったまま歩き出す。
「課長、手を離して下さいよ」
「寒いだろ?」
「寒くないですよ。まだまだ真冬でもあるまいし」
少し上を向いて考える風の課長。
「じゃあ、迷子になるだろ?」
「じゃあってなんですか! とってつけたみたいだし。私、大人なので迷子になりませんから」
手を振り払いたい私は、繋がれた課長の手をブンブンと振り回した。
「うるさいなぁ、俺に手を繋がれて文句言う女はいなかったぞ」
「あ〜、さぞかし従順な女ばかりだったんでしょうね?」
「お前が変わってるんだろが」
一向に離れない手を眺めながら、溜息を盛大についた。
「あ〜手がかゆい! ちょっとだけ離してください」
「どれ? 俺がかいてやる」
課長はブリーフケースを小脇に抱え私の手を掴んで掌をかきはじめた。
「課長、そこじゃないんです。もうかゆい、かゆい、かゆい!」
手を離して欲しくて、同じ言葉を連発していた。
「かゆい、かゆいって……お前の名前みたいだな。ユイカ…ユイカ……かゆいってな」
ーーー馬鹿げたことを言ってるよ。この人。
呆れてもう、どうでも良くなってきていた。