恋愛遭難★恋は水もの〜パツンと教訓!〜
真夜中に吠える犬
電車を降りて、マンションまでの道のりをぼぉっとして歩く。
さっきまですっかり熟睡して、いい感じに揺られていた。
「起きろ!」と、突然耳元で言われビックリして跳ね起きたのだ。
「もう少し、優しく起こしてくれればいいのに……」
起こし方が乱暴な課長に少々愚痴りたかった。
「なんか言ったか?」
「いえ、何にも言ってません」
でも、文句言う気力もなくしていたので黙って歩くことに決めた。
もちろん、手を繋がれていた。
「課長、私と手を繋いで楽しいですか?」
「いや、楽しくは無い。ついでに言うと面白くも無いし、嬉しくも無い。興奮もしないし」
「なら、何で繋ぐんですか?」
「お前に俺の感触を残すためだ」
「感触?」
ーーー何だか、感触だなんて言い方に、ぞぞっとする。
「今日、家に帰ってからお前が『あれ、何か違和感があるけど……』って思って手を眺めるだろ?」
「はあ」
「で、『あ、なんか足りないと思ったけど……そうか、課長の手だ』って俺の手の感触を思い出す」
私は、繋がれている手を眺めた。
ーーーでも、本当に思い出すかも。課長の温もりとか、残った手の感触……。
「思い出させて、どうかなります?」
「なる。お前が俺を恋しく思うだろ?」
「恋しく? 課長、言ってて恥ずかしくないですか?あ〜 無理だわ…」
ーーー課長は、ある意味恥ずかしい男だ。自意識過剰だし、照れるような言葉を平気で使うし、何しろ最悪なのは、私が課長を好きになると思い込んでいる所だ。