浮気男に逆襲を!
そう思った時、あたしは自分でも不思議なくらい穏やかな笑みを浮かべていた。
けどそれは、コイツを許す気になったからでは断じてない。
顔を見れば腹立つし、自分がフッた女に平然と話しかけてくる無神経さに呆れてる。
でも、だからこそ本気で、この男と同じ人種にはなりたくないと思ったんだ。
「……もう遅いよ」
まっすぐ、射抜くように伸平を見つめる。
これは、数日前に始めた安っぽい復讐劇にピリオドを打つための言葉。
そして、新たに始める本当の復讐劇の序章。
「よく言うじゃん。逃した魚は大きいって」
初対面のアッくん先輩を吹き出させたイイ笑顔をキメて、我ながらなかなか格好いい台詞を吐く。
「……」
決死の告白をいとも簡単に破られた伸平は、無言のままじっとあたしを見る。
こないだみたく無理やり壁ドンとかしてこない辺り、コイツもちょっとは成長したのかも。
プフッと吹き出しつつ、あたしはゆっくり背を向けた。
「──じゃあね。塚原くん」
ひらひらと背中越しに手を振って、悠々と歩き出す。
うーん。何だか生まれ変わった気分だね。
超清々しいわ。
これがホントの "はじめの一歩" ってやつかな。
新生・中沢凛花あらわる! 的なね。