浮気男に逆襲を!
結局その日、中沢は学校に来なかった。
俺にフラれたことがショックで泣き寝入りでもしてんのか? なんて、ついにやけてしまう。
昼休みに結衣から聞いた話では、俺がすがり女発言をする前から、中沢が俺にフラれたことは学校中に知れ渡っていたらしい (誠人はその辺鈍感だから気付いてなかったようだが)。
おそらくこれまでの非恋人的関係に疑問を持った奴らが、昨日の俺たちのやりとりを盗み見してテキトーに噂をふりまいたんだろう。
俗に言うWパンチをくらった中沢の心境を考えるとほんの少し胸の痛みをおぼえたが、大して気にもせず放課後の教室を後にした。
……いや、正確には、しようとした。
だがその寸前でガラッと勢いよくドアが開き、この学校きっての有名人が現れた。
「中沢凛花ちゃんって、まだいる?」
男の俺でも鳥肌がたってしまうくらいの美形にして、成績優秀スポーツ万能、喧嘩の腕も最強という驚異的なステータスの持ち主。
その名も、3年の岩崎篤斗。
明らかに周りの奴らとは違う圧倒的なオーラを身にまとうこの男の登場に、クラス全員が息を呑む。
だがそれよりも、俺は今コイツが発した言葉に耳を疑った。
"中沢凛花ちゃん"
何でここでアイツの名前が出てくるんだ。
んな親しそうに呼ぶんじゃねぇよ。
などと柄にもなくムシャクシャしていた俺の横で、目をハートマークにした名前も知らねぇ女が嬉々として答えた。
「な…中沢ちゃんなら、今日は休みですよ」
「あ、そーなの? マジかぁ~」
残念そうに小さく笑って、"ありがとう" と片手を上げると、岩崎は風のように去っていった。
「か……かっこいぃ……」
恍惚とした呟きを最後に真っ赤な顔でぶっ倒れた女をスルーし、俺は奴を追ってすぐさま教室を飛び出した。