突発性ヴァンパイア・ガール!
「橋本が感染した突発性吸血鬼症候群は、今存在している吸血鬼によってもたらされる病気。

体内にある吸血鬼の病原菌のようなものが原因で、突然、何かの拍子で発症し吸血鬼化するものだ。

その病原菌となる吸血鬼は、その人間と接触をしている。

そこから橋本に病原菌を移したのは寅木だと考えた」


吉崎君は銃口を亜美に向けたまま、侑也の方を見ていた。


「それに、あんたのその甘党なところ。

明らかに不自然なんだよ。

吸血鬼は甘党な奴が多いと聞く。

あんたはコーヒーに大量の砂糖と牛乳を投入していた。

牛乳は人間の血液に近い。吸血鬼が好むのも必至だろう。

お前たちは、牛乳を接種するのをカモフラージュするために、かなりの甘党を装ってコーヒーを飲んだ」


どこか違うか?


吉崎君はそう付け加えた。


「いいや、その通りだよ」


侑也は隠すこともせず、吉崎君を称賛するように手を叩きながら笑った。


「え…?」


困惑の声を上げたのは私だった。


「どういうことなの、侑也?」


すると侑也は私を見て、また笑った。


「どういうこともこういうこともないよ。

僕がきみに、吉崎君のいう"病原菌"を移した。

きみに働きかけていた吸血鬼の成分は、僕のだ」


私は両手をぎりぎりと握りしめた。


「僕が働きかけていた。

きみも聞こえていたでしょう?

一時的に吸血鬼になった時に、声が。

あれ、僕の声なんだよね。

僕の吸血鬼成分が入り込んでいるものは、吸血鬼化して僕の命令の通りに動かすことができるから」



ああ、ここにいた。


こんなところにいた。


ずっと探していた吸血鬼が、こんなにも近くに。



「いつ?いつ移したの?」


すると侑也はクスクス笑った。


「分からない?」


そして私に近づくとにっこり笑顔で言った。


「キスした時だよ」


あまりの衝撃に言葉がでなかった。


「いくらでも接触する機会はあった。

例えば、僕らはいつでもうららの家に入り込めた。

一度僕と亜美はうららの家に招かれているからね。

けれど僕たちはあえて、うららの家に忍び込むという選択をしなかった。

菌を移すことと同時にあることを狙ったからね」


「あること…?」


「僕達が付き合うこと」


思わず耳を疑った。


今、侑也はなんて言った?

私達が付き合うことって言った?


それが、なんだというのだろう。

それが、このことと何の関係があるのだろう。

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