突発性ヴァンパイア・ガール!
「だからその"うららさん"って言うの、本当にやめてってば。すごく違和感があって寒気がするもの」


亜美は眉をひそめた。


「"うららさん"で違和感があるまでは分からなくもないけど、寒気がするってどういうこと?!

感覚がよく分からないよ?!

分かる気もしないよ!

というかさっき犬扱いのこと、やっぱり否定しなかったよね!?」


「本当にやめなさいよね、侑也」


「無視!?」


完全なる無視に一人でショックを受けていると「うららもよ」と亜美が言った。


「うららも、侑也のことをさん付けなんてしないで。本当に違和感があってたまらないわ」


亜美は私と侑也さんの手をとった。


「これからはお互いに呼び捨てで呼びあうこと」


いいわね、と念をおされる。


私と侑也さんは顔を見合わせた。


侑也さんも困った顔をしている。


「亜美にそこまで強く言われると、どうしようもできないな」


侑也さんは困ったように笑いながら言った。

確かに亜美は冷静沈着なしっかり者である半面、頑固者でもある。

亜美を説得するのには骨が折れる。


「いいかな?うららって呼んで」


「う、うん」


私が頷いた瞬間、侑也さんはパァッと明るい笑顔になった。


「ありがとう、うらら」


キュン、じゃ物足りないくらい、強く深く、ピンク色の矢印が胸に突き刺さった。


「い、いえ、あ、えっと、私はなんて呼べば…」


視線をさまよわせながら私は尋ねた。


情けないほど声は震えていた。


「侑也って呼んでほしいな」


そんな私にあたたかい笑みをくれた。


「よろしくね、うらら」


手を差し出された。


恐らく握手の意味だろう。


「こちらこそよろしく、侑也」


差し出された手を掴んで、侑也の顔を見つめた。


笑顔が素敵な人だと改めて思う。


あたたかい、そう感じた。


時間が止まればいいのに。


そう願ってしまった。



この手を離したくない。



そう思ってしまったから。


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