突発性ヴァンパイア・ガール!

ポケットに手を突っ込んで、ぼうっと立っている。


辺りでは木漏れ日がゆらゆら揺れている。


鳥のさえずりが聞こえてくる。


穏やかだと思った。


私の存在に気づいた吉崎君は、私を見ると一言こう言った。


「遅い」


溜息を吐きながら、そう言ったのだ。


人を呼び出しておいてなんて態度だ。


大体、こんな時間に呼び出す方がよっぽど迷惑だ。


言いたいことはいくつもあったが、ありすぎて喉につっかえて出てこなかった。


ムカムカと湧き上がる感情を抑えつつ、私は尋ねる。


「こんなところに呼び出して、私に一体何の用?」


私はもう普通の人間に戻った。


侑也から吸血鬼の能力が消え、侑也がほとんど普通の人間と変わらない状態になった。


そのため私の病気、突発性吸血鬼症候群は完治した。


私はもう吸血鬼関連のことから解放されているはず。


吉崎君はなかなか口を開かなかった。


人を呼び出し、場所に来たら『遅い』とまで言ったくせに。



「1つ、聞いてほしいことがある」



しばらくの沈黙の後、吉崎君は目を逸らしながらそう言った。



「聞いてほしいことって?」


私がそう尋ねると、吉崎君はまた黙った。


「寅木と香宮は、吸血鬼ではなくなった。

もうほとんど人間と同じだ。

おまけにあんたの病気も完治した。


だから吸血鬼ハンターとしては、もうあんたに関わる必要はない」


吉崎君は言った。


サワサワと風の音だけが聞こえる。


胸がぎゅっと締め付けられる。


私だけだったのかな。


もっと吉崎君と仲良くなりたいと思ったのは、私だけだったのかな。


私が俯いていると、吉崎君は「でも」と言った。



「でも、俺は、まだ、あんたから、あんた達から離れたくない」



思わず顔をあげる。
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