突発性ヴァンパイア・ガール!
その時、ガラッとクラスの扉が開く音がして目をやると、吉崎君だった。


それまでざわざわとざわめいていたクラスの声が、ヒソヒソ声へと変換した。


「吉崎君が今日も来てるよ」


「どうしたんだろう」


「相変わらず不機嫌な顔をしてんな」


「ケンカで負けたんじゃね?」


そんな根も葉もないような言葉が飛び交う中、吉崎君は一人我関せずという様子で自席に着いた。


その時、私と目があった。


吉崎君は目を見開くと、今度はぎろりと睨み付けるような目で私を見た。


「ね、ねぇ、亜美?」


鋭い瞳から目を逸らせなまま、亜美に尋ねる。


「なに?うらら」


「私って、吉崎君に何かしたっけ?」


「はあ?」


最もな答えが返ってきた。


けれど、本当に分からない。


吉崎君に睨まれる理由が、全く。


人に恨まれるようなことは、何一つやっていないはずだ。


...侑也のことが好きな女の子は別として。


私が吉崎君と話したのは


『あんた、バカ?』


あの1回しかないのに。


たったあれだけのことで、睨まれるわけですか?


そんなの、やってられない!


「うらら」


両の拳を握り、ごうごうと吉崎君に対する怒りを燃やしていると、侑也が私の名前を呼んだ。


ぱっと両手を開いて、怖い顔もやめて侑也の方を振り向いた。


「なに?どうし...」


どうしたの?


そう聞く前に、侑也は私の手首をつかんで引き寄せた。


「えっ、ちょっ、侑也?!」


気づいたときには侑也の胸の中にいた。


ぎゅっと抱きしめられて、顔は見えない。


「僕だけを見てて」


掠れた声でささやかれた。


顔を離すと、侑也は眉を下げて少し困ったような顔をしていた。


「侑也…」


徐々に目を閉じて、侑也が近づいてくる。


柔らかそうな、金髪に近い明るい髪色。


その唇は、そっと私のおでこに触れた。


「うららは僕のだよ」


ね。


少し苦しそうに微笑まれたら、何も言えなくて。


思考回路は完全に止まっていた。


オーバーヒートだ、対処できる範囲を優に超えていた。


キャアア、と私と侑也をからかうようなそんなクラスメイトの声が聞こえる中で。


侑也が触れたおでこが熱を帯びていくのを感じていた。

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