突発性ヴァンパイア・ガール!
もしかして、先ほどの亜美の話を聞かれただろうか。

聞かれていませんように、聞かれていませんように。


念じながらそっと見上げると、黒い冷たい瞳はまっすぐ私を見下ろしている。


その瞳に負けないよう、わたしも眉をひそめて見つめ返す。


「あんた、今日の放課後、暇?」


制服のポケットに手を突っ込んだまま、吉崎君はそう言った。


「はっ!?」


「放課後は暇かって聞いてんだよ。さっさと答えろ」


なんで喧嘩腰なのさ!?


「用事、は、ないけど…」


答えを聞いた吉崎君は真顔のまま、ふーん、と言った。


「あんたに話がある。放課後、屋上に来い」


「は?嫌だけど。ていうかなんで命令形なの?」


なんで睨まれ続けた男の言うことなんて聞かなくちゃいけないんだっつーの。


「言っとくけど、あんたに拒否権はない」


「は?何それ、そんなの吉崎君の身勝手じゃん!」


しかしそんな反論も聞こえない、といった素振りで吉崎君はさらに言葉をつづけた。


「逃げんじゃねぇ。絶対来い」


いいな?


ぎろりと睨まれた。


動いたらその瞬間殺されるんじゃないかと思ってしまうほど、鋭い瞳。


その視線から逃れたいのに、目をそらせない。


強い強い、その瞳。


まるで何かの魔法にかけられたみたいに。


体はぴくりとも動かすことができなかった。


しばらく睨み付けると満足したのか、吉崎君はどこかへ行ってしまった。


私は俯いて拳を握った。


「う、うらら?大丈夫?」


亜美が心配して尋ねてきた。


「……かやろ」


「え?」


「吉崎君のバカヤロー!」


亜美はいきなり叫びだしたことには少し驚いたようだったが、大した混乱はなかった。


さすがいつも冷静なしっかり者。


しかし今はそれどころじゃない。


この行き場のない感情を、どうすればいい?


「何なの?睨んできたと思ったらいきなり呼び出しなんて、調子に乗るのもいい加減にしろっつーの!
しかも拒否権なしとか、ふざけんなっつーのー!」



私の叫び声だけが教室に響いていた。


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