突発性ヴァンパイア・ガール!



放課後、私は吉崎君へと日頃の怒りをぶつけるため、屋上へと続く階段を登っていた。


階段を登りながら、ここはあまり好きな場所ではないなと思った。


陽の光りも届かず、暗い上に埃っぽい。


こんなところを指定するなんて、吉崎君とは全然趣味が合わない。


やっとの思いで登り詰め、現れた扉に手をかける。


古く錆び付いたそれは、金属同士が擦れキイという耳障りな音と共に重々しく開いた。


扉が開いたその瞬間、ぶわっ、と吹き込んできた風と眩い光。


思わず目を細めた。



扉の向こうへ一歩進むと、風も光も落ち着いた。



視界に映るのは、屋上の薄汚れたコンクリートと夕焼けと呼ぶにはまだ早い空。



その景色の中に、吉崎君がいた。


制服のズボンのポケットに手を突っ込んだまま、空を見ている。


横顔が綺麗だなんて、不覚にもそんなことを思ってしまった。


やがてこちらに気づき、私の方に向き直った。


冷たい目で見下ろしている。



「吉崎君、いきなり呼び出して何の用?っていうか、このところ私のこと睨んでたよね?それってどういうこと?」



私は腕を組み、少し喧嘩腰に質問をぶつけた。


しかし吉崎君はそれらの質問には答えずに、ポケットから折り畳み式の果物ナイフを取り出した。


どうするつもりだと思うより先に、吉崎君は右手に持った鋭いナイフの刃を自らの左手の指先に軽く当て滑らせた。



バラの花びらのように舞い散る、赤い滴。



ポタリ、ポタリ。



吉崎君の左手から滴り落ちる、赤。



薄汚れたコンクリートの上に赤く歪んだ水玉模様を作る。



吉崎君は無表情だった。



「ちょっ、何してんの!?」



私は吉崎君の持つナイフを奪い、捨てた。



「何してんの!?自分で自分に傷をつけるなんて、どうして!?」



理由を尋ねるも、吉崎君は固く口を閉ざしたまま何も言おうとはしない。


その間にも血は流れている。


末端を切ったからであろうか、血はなかなか止まらない。



「とりあえず、止血しないと!」



吉崎君の左手を両手でとってけがの状況を見る。


大した知識はないけれど、それでもどうにかしなくちゃ。


吉崎君の左手は、指の方を中心に、血で赤く染まっていた。


血独特の、刺すような鉄の臭いが鼻に抜ける。



その時、くらり、と視界が柔らかく歪んだ心地がした。


吉崎君の左手の赤が、より赤く見えたような気がした。


一瞬のことだったけれど。


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