突発性ヴァンパイア・ガール!
「名前の通り、突然何かの拍子で吸血鬼のような行動をとる病気だ。

病気が進行すれば、完全に吸血鬼となる」


「そんな病気、聞いたことないんですけど…」


「だろうな。この病気を知るのは当事者と吸血鬼、そして吸血鬼ハンターだけだから」


吉崎君は、はぁ、とため息を吐いた。


「じゃあ、よ、吉崎君も吸血鬼?」


距離を取りながら尋ねると、吉崎君は目を吊り上げて怒った。


「なわけねぇだろうが!俺は吸血ハンターだ、間違えるなバカ!」


「吸血鬼ハンター?サボリ魔の吉崎君が?吸血鬼ハンター?」


ははっと思わず笑ってしまった。


笑いが収まらない。


「何を笑っている」


吉崎君は不快感をあらわにした。


「だっ、だって、吉崎君が吸血鬼ハンターとかっ、そんなのっ、あははははっ!」


どうにも笑いが止まらなかった。


サボリ魔の吉崎君が、吸血鬼ハンターなんて。


ハロウィンの仮装の設定かと思ってしまうほど、現実味がない。


「こうなっても、信じられないか」


吉崎君は左手を差し出した。


さきほど切った指先はもう血が止まっているが、左手はまだ血まみれだった。


手を洗うなり、拭くなり、すればよかったのに。


そう思うけれど、血の臭いを感じ取った瞬間、思考から消えた。


鉄の臭い。


赤。


視界が歪んでいくような心地がした。


まるで薄い赤色のフィルターがかかったみたいに、視界がうっすらと赤く染まってはっきりしなくなる。


血。


赤い、血。


あぁ、思考までもはっきりしない。


瞳に映る、吉崎君の血まみれの左手。


赤、あか、アカ。


鮮やかなその色が、脳を刺激し麻痺させていく。



アカ。


アカ。


アカイ、チ。


ホシイ。


ホシイ。


ドンナ アジガ スルノダロウ。



吉崎君の左手を口に運ぼうとしたところで、パン、と頬を叩かれた。


「痛っ!」


視界が急にクリアになった。

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