突発性ヴァンパイア・ガール!
入ってみると、倉庫の中は想像していた通り廃れていた。

やはり何年も使われていないらしい。全体的に薄暗く、埃っぽい。今すぐにでも換気をしたい。

倉庫だというのに、だだっ広いだけで何も置いていない。


「何、ここ…」


「だから廃倉庫っつってんだろ。何回言わせる気だ」


「だから、それは分かってるっつーの!大体、ここに何があるのよ!」


うるさい、と吉崎君は面倒くさそうに言った。


「とりあえず、あんたの血をくれ」


「はあ?」


意味が分からない。

話が噛み合っていない。

血をくれ、などと言うなんて、あんたも吸血鬼か、と叫びたかったがそれは心にしまった。


「吸血鬼集めんのにあんたの血がいるんだよ。エサだ、エサ」


吉崎君は冷たい目でそう言った。


「吸血鬼なんて集めてどうするの?」


「どうするもこうするもねぇだろ」


吉崎君は溜息を吐いた。


「俺は吸血鬼ハンター。吸血鬼を倒すのが仕事だ。吸血鬼を血というエサで釣って倒す。それだけだ」


冷たい目をしていた。

冷たい中に憎しみの色が見え隠れしているように感じた。


「吉崎君…」


「あ?」


嫌悪感丸出しの目で見られると、そのことを追及する気にはなれなかった。


「いや、なんでもない」


私が誤魔化すと「いらないことを言うな」と面倒くさそうな顔をされた。


「なんでそのエサに私の血を使うの?別に私じゃなくても、吉崎君の血でいいじゃん」


すると吉崎君は少し言葉を詰まらせた。


「俺の血は、だめだ」


「なんで?」


「俺の血は吸血鬼に好かれない血だから」


「それってどういうこと?」


吉崎君はついに黙ってしまった。

しかし、大きくため息を吐くと、まるで他人事のように言った。


「俺は吸血鬼とのハーフだ。いわゆるダンピールな。ダンピールは吸血鬼を倒す力を持っているんだ。だから吸血鬼からは好かれてねぇんだ。俺の血は吸血鬼をおびき出すエサにはならねぇんだよ」


吸血鬼とのハーフ、ダンピール。


「だから、なの?」


「あ?」


「ダンピールだから、吸血鬼を倒す力を持っているから、吸血鬼ハンターをやってるの?」


私が聞くと、吉崎君は目を逸らした。


「それ以外にも何か理由が...」


「あんたには」


私の声をかき消すように、吉崎君は声を張りあげた。


「あんたには、関係ないことだ」


声色は、固くて。


話したくないことなんだと悟った。
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