突発性ヴァンパイア・ガール!
「ま、そういうことだから」


吉崎君は私の腕を掴んだ。


「えっ、ちょっ、待って!誰も血をあげるなんて言ってないんですけど!?」


すると吉崎君は「あんたも強情だな」と溜息を吐いた。


「あんたの血をエサに差し出すことで、あんたが探している吸血鬼に出会えるかもしれねぇぞ」


うっ、と言葉が詰まった。


それならいいかも、と思ったけど、吉崎君の口車に乗せられているんじゃないかと思った時にはすでに時は遅く。


「必要なのは数滴だけだから」


そう言った吉崎君の左手には細い針。


「そ、それで刺す気!?」


「当たり前だろ」


「当たり前じゃないから!絶対違うから!

医療に関係ないのにも関わらず、人の体に針を刺して血を取ろうという考えをしている時点で当たり前じゃないから!」


「何言ってんだ。当たり前のことに決まってるだろ。吸血鬼ハンターの間じゃ常識だし、普通のことだぞ」


「まず吸血鬼ハンター自体が普通じゃないから!そこから違うから!」


「うっさい」


一喝されて、押し黙る。


吉崎君に掴まれた左の手首。


「余計な怪我をしたくなければ動くな。1ミリたりともだ」


冷たい口調で言われて、私は体を強張らせた。


吉崎君は、左の中指の腹に針を押し付ける。

鉛色の鋭いその先が、指の腹をじわりじわりと押していく。


痛い。


目を閉じかけた、その時。


ぷつり。


赤い丸い血が溢れた。


吉崎君は指に押し付けていた針を離して、制服の内ポケットから赤い布きれを出した。

3センチ四方ほどの大きさのそれを私の左の中指に被せ、押し付けた。


「何してるの」


「あんたの血を布につけてるだけだ」


「それくらいは分かるってば!それをどうするの?」


「もうすぐ分かる」


納得いかないと思ったが、ここで問い詰めたところでこれ以上吉崎君がこのことについて話してくれる気はないんだなということは分かった。


吉崎君は私の指に押し付けてた赤い布をおもむろに床に置くと、私の腕を取って移動した。


「こっちに来い」


だから、なんで上から目線なんだ。


ツッコみたくなる気持ちを抑えて、吉崎君に手を引かれるまま、ほとんど何も置かれていない倉庫の太い太い柱の陰に隠れた。
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